JOSHIBI・AP

Graduate & Degree Show 2020
2020年度 女子美術大学
アート・デザイン表現学科 アートプロデュース表現領域
卒業制作・修了研究展

GRADUATION WORKS学部4年生卒業研究・制作作品

私はあなたの奥歯を知らない

石井 伶依Rei Ishii

空平面作品 映像作品|映像:W1280×H720(px) 画像:W210×H297(mm)|デジタル
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歯医者で歯科助手をした経験から歯は私たちの生活やストレスと深く関係している本質的な器官である事実を知り、作品を通して考察することを試みた。 歯科助手のアルバイトをしていた時に歯医者のゴミ箱から知らない人の歯が複製された模型を拾い、それをまた写真という形で新たに複製する。それに対して映像作品では、動画では模型を使って歯の被せ物が作られる工程が一つ一つ見せられていく。
本質と表面、外と内、他人と自分、人工物と自然物、機能と見た目、リアルと妄想などの対比したキーワードを軸に作品を展開する。

【本性が顕在化した姿】
人間は歯という器官で食べ物を咀嚼し飲み込むという活動によって栄養を取り入れ、生きている。考えてみると、歯の形や並び方は非常に複雑な形をしている。しかしそれには明確な理由がある。食べる時、まず口の中に入るサイズになるよう前歯を使って噛みちぎる。前歯が奥歯よりも薄い理由は包丁と同じく薄い形状であることで食べ物をうまく切ることができるためである。そして犬歯あたりで細かくし、さらに面積の広い奥歯ですり潰すように粉砕し、飲み込む。歯の形は本性が顕在化した姿なのである。

【本質的な器官】
咀嚼する以外にも歯には役割がある。重いものを持ち上げる時や踏ん張る時、何かに耐える時、人間は強く噛み締めることで力むことが可能になる。体力的な負担だけでなく、精神的な負担の場合も歯に頼っている。噛みしめることでストレス物質の量が低下することも明らかになっている。歯科と心理学が深く関係していることはすでに多くの論文で記されている上に、実際に人間の歯を見ていても一目瞭然だ。コロナウィルスの流行によりストレスを抱える人が増えた昨今、噛み締めが原因で歯が欠ける人や神経が自然と死んでしまう人も増えていると歯科医師は言っている。私たちは歯を噛みしめることでストレスをコントロールしている。それも無意識の中で。歯は実に本質的な器官である。その人の口の中をみると生活の背景の一部が見える。レントゲンを取れば、本人も気付いていないところまではっきりと見えてしまう。しかし私たちは親しい友人であっても、恋人であっても、その人の奥歯を真剣に見たことはない。日々の人間の交流とは一体なんなのか、歯を通して考える。

【人間と人工物と価値】
ストレスや生活習慣の影響によって破壊された歯は自然に治癒することはほとんどない。歯は不可逆的存在である。歯医者で虫歯を取り除き、技工所で新たに人工的に作られた歯を装着し、自らの体の一部として機能させる。顔も名前も知らない人が作った人工物と体が共存し、生きるために活動を行う。その状態を社会と重ねて見てしまう。現代では生きているだけでもほぼ強制的に様々な人工物に頼る場面がある。しかしそれを作った人の顔も名前も、奥歯も知らない。 ものの背景には確実に人間が存在し、それを作るために無意味な存在となったものがある。大量のものに囲まれているが、私たちはそのほんの表面しか知ることができていないのかもしれない。それは人間関係でも同じことが言えると思う。知る必要性はないのかもしれないが、知らない。ということを知る。その上で人間は独自の解釈や想像を膨らまし、新たに価値を見出そうとしているのではないだろうか。

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