JOSHIBI・AP

Graduate & Degree Show 2020
2020年度 女子美術大学
アート・デザイン表現学科 アートプロデュース表現領域
卒業制作・修了研究展

DEGREE WORKS博士前期課程修了研究

レントゲン藝術研究所とは何か
— 資料アーカイブとその考察 —

鈴木 萌夏Moeka Suzuki
大久保婦久子賞

ZINE「レントゲン藝術研究所の研究」|ZINEデザイン・撮影:中村陽道
ZINE3号掲載「展覧会会場図」|イラスト:鈴木萌夏|ZINEレイアウト:中村陽道
池内務氏への公開インタビュー風景(2018)
女子美術大学卒業制作展展示風景(2019)|撮影:萩原美寛
レントゲン藝術研究所の研究展展示風景(2019)

本研究は1991年から1995年まで存在した画廊「レントゲン藝術研究所」について過去の資料の分析を通じてその活動を明らかにし、90年代の日本のアートシーンにおける位置付け、役割を検証することを目的としています。本展は、2017年から2020年にかけて行なってきたリサーチプロジェクト「レントゲン藝術研究所の研究」に基づき、考察した結果をまとめた冊子「レントゲン藝術研究所とは何か—資料アーカイブとその考察—」を展開させたものです。
「レントゲン藝術研究所」は古美術や茶道具を中心に取り扱う株式会社池内美術の現代美術部門の画廊としてオープンしました。同ギャラリーが設立された当時は、現代美術を取り扱う美術館や画廊は限られた数しか存在せず、貸画廊のような高賃料のレンタルスペースなどがアーティストにとって一般的な発表の場でした。中でも大学を卒業して間もないアーティストが作品を発表できる場所は極めて少なく、「レントゲン藝術研究所」は若手アーティストが作品を発表する絶好の場所となりました。この場所でデビューを飾ったアーティストやキュレーターは少なくありません。レントゲン藝術研究所によるアーティストのサポートの役割は、主に3つに大別できます。1つは作品発表の場の提供。約5年間の活動期間において35本の企画展に加え、コレクション展が不定期で開催されました。2つ目は、制作の場を提供すること。1フロア65坪という広さを生かし、巨大な作品を制作することができたのです。3つ目は、画廊としてアートマーケットへ参加し、作家とコレクターを繋げる場を提供すること。このような活動から、レントゲン藝術研究所は90年代の日本の現代美術の発展において重要な役割を担っていたと推察できます。しかし、現状では90年代のアートシーンの検証はほとんど行われておらず、「レントゲン藝術研究所」の具体的な活動、アートシーンへの貢献も明らかになっていません。同時代に関わったアーティストや評論家等が書籍などで回想として語られる中では、あるムーブメントとしての位置付けや、ひとつの作品や作家、展覧会についてであり、展示空間の役割について注目、言及されることは極めて少ないと言えます。むしろ、注目されるべきは、既存の美術館や画廊ではないもうひとつの(オルタナティブ)スペースが、新しい美術の動きを支える重要な働きをしたということではないでしょうか。
こうした問題意識から、レントゲン藝術研究所準備室より寄託された展覧会企画資料、印刷物、写真、ビデオ等の一次資料および書籍等の二次資料の調査を行い、当事者であるレントゲン藝術研究所ディレクターを務めた池内務氏、キュレーターの黒沢伸氏(前・金沢21世紀美術館副館長)、評論家の西原珉氏、アーティストの会田誠氏、小沢剛氏、八谷和彦氏の6名へのインタビューを行い、一次資料の補完を試みた。また、最終的な研究発表として冊子制作・出版を行い、アートフェア、現代美術に関する展覧会会場等で頒布することにより、若い世代へのアプローチを試みました。
美術の発展に画廊の存在は欠かせないものでありながら、そこでの活動の記録、情報の資料性が重視されてこなかったということも明らかになりました。「レントゲン藝術研究所」の活動を顕在化することにより、ある時代のアートシーンの軌跡を残し共有することで、90年代現代美術の研究の多様な広がりを見つける機会になれば幸いです。

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