JOSHIBI・AP

Graduate & Degree Show 2020
2020年度 女子美術大学
アート・デザイン表現学科 アートプロデュース表現領域
卒業制作・修了研究展

DEGREE WORKS博士前期課程修了研究

茨城県北芸術祭とその後のアート
— 当事者たちへのインタビュー —

磯野 玲奈Rena Isono

冊子によるプロジェクト報告

本研究は、「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」(以下、県北芸術祭)を事例とし、2000年以降、日本の各地域で多数実施されてきた大規模芸術祭の効果とは何か、その必要性について検証し、調査記録集としてとりまとめたものである。
今日、全国の各地域において芸術祭が多数実施されている背景には、地域が抱える高齢化や過疎化などの社会課題がある。人々が生活する街の中に芸術があることで、観客にとって日常とは異なる視点で物事を見ることができ、生きるために真に必要なこととは何かを考える機会がもたらされることから、地域が抱える社会課題と向き合うことへと繋がる。また、芸術祭に参加するアーティストにとっては、作品の制作発表を通して人々と関わり合う絶好の機会となり、結果として表現の豊かさに繋がる。社会課題への関心を喚起するとともに、新たな芸術表現の育成する役割が期待されることから、大規模芸術祭が全国で実施されるという流れが続いてきた。しかし、近年は政治的な要因によって継続が困難、あるいは形を変えて運営せざるを得ない事例が見られるようになっており、県北芸術祭(主催:茨城県)もその1つとして挙げられる。
2019年秋に開催予定だった第2回は中止が決定した。このことを受け、県北芸術祭は本当に不必要なものであったのか、芸術祭の真の効果とは何かを検証するため、県北地域におけるアートの主な動向の調査を2019年より開始し、資料および活動拠点の取材、県北芸術祭とその後のアート活動に関わる当事者である岡野恵未子氏(元茨城県企画部県北振興課)、冠那菜奈氏(元県北芸術祭キュレトリアルアシスタント)、松本美枝子氏と日坂奈央氏(茨城県北地域おこし協力隊)、海野輝雄氏(メゾン・ケンポクのチーム)、菊池彩稀氏(元大子町地域おこし協力隊)の6名へのインタビューを実施した。中でも、県北芸術祭以後、地域おこし協力隊の制度を活用し、県北地域外から集まったアーティストたちが運営する活動拠点「メゾン・ケンポク」が、現在の県北のアートのハブとして機能し始めていることに注目した。芸術祭を実施することにより他地域からアートに関わる人材の流入し、拠点(プラットフォーム)形成と、国の地域振興に対する制度との目的、成果が一致しており、県北芸術祭の効果の一部だと言えるだろう。一方で、県北地域でアートプロジェクトの現場をマネジメントできる人材が不足しているという課題が見えてきた。アーティストがマネジメントを兼業するのではなく、作品制作をするアーティストとマネジメントをするディレクターやコーディネーターが分業できていれば、県北地域のプラットフォームは更に充実するのではないだろうか。

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